私は、選択を迫られている。
――愛する者を救うために、悪事に目をつぶるか。
――それとも法の下の正義において悪事を明るみにする代わりに、恋人を病気から快復させる術を失うか。
私の恋人はある腎疾患にかかっている。それは10万人に一人と言われている難病で、腎移植のドナーも同程度の確率でしか見つからないらしい。病状も悪化の一途を辿り、一刻の猶予もないのだが、私にできることは彼の側にいてあげることだけだ。彼の命が尽きるその前に、適合する腎臓が見つかるという奇跡のような出来事が起こることを信じて。
ただ一介の高校生に過ぎない私には、裏の顔がある。"悪魔憑き"と呼ばれる、変身能力と超常能力を持つ者達。私はその"悪魔憑き"のひとりだ。私は変身しても怪力を発揮できるようになるだけだが、"悪魔憑き"には怪我を治したり、記憶を操作したりできる者もいる。当然、そのような異端の能力を知られるわけにもいかない。"悪魔憑き"たちは「セラフィム」と呼ばれる互助組織を設立し、"悪魔憑き"についての情報を共有したり、悪に染まった"悪魔憑き"の起こす怪事件を人知れず解決したりすることとなった。私も、その「セラフィム」の一員として活動している。
今回、「セラフィム」に呼び出された私は、ここ対馬県警の池田という男の依頼を受け、3人の仲間とともに謎の客船から消えたコンテナの行方を探ることとなった。調査を進めるうち、その客船は東南アジアの麻薬シンジケートの船だったことが分かった。麻薬を密輸しようとしていたところが発覚し、中に積まれていた麻薬は警察に押収されたのだが、その中でひとつのコンテナだけが行方不明となったらしい。「セラフィム」の別動隊がこの件の解決に一役買っていたのだが、行方の分からなくなったコンテナについては情報を得ることができなかった。
さらに調査を続け、浮かび上がったのがある病院の名前。そこは、私の恋人が入院している。偶然だと思いながら、コンテナが取引されるという現場に私は赴いた。
そこにいたのは、東南アジアのマフィア、日本のヤクザ、そして病院の医師。コンテナの扉は開かれ、引き換えに医師たちはいくつかのジェラルミンのアタッシェケースを受け渡した。そのコンテナの中にはさまざま臓器が冷蔵されていた。おそらくは、東南アジアの貧しい人たちから奪ったものだろう。
私たちはその現場に乗り込み、自分たちの能力を使ってその場を制圧した。相手にも"悪魔憑き"がいたが、難なく倒すことができた。
そいつらに事件の裏を聞き出すと、彼ら東南アジアのマフィアは臓器を密売し、日本のヤクザは臓器のドナーとなるダミーの死体を「用意」する。そうして用意されたドナーから提供されたものとして、病院側は移植手術を行うというからくりだった。取引に応じようとしていた、私の恋人の主治医は、私に向かって、このコンテナの中に彼に適合する腎臓があると言った。
私は、選択を迫られている。
――愛する者を救うために、悪事に目をつぶるか。
――それとも法の下の正義において悪事を明るみにする代わりに、恋人を病気から快復させる術を失うか。
結果として私は恋人を見捨て、今回の事件を明るみにすることを選んだ。どのような選択をしても後悔するのなら、私は、私の考える正義に殉じることにしたのだ。ダミーの献体とするためにヤクザに殺された少年が、私の仲間の友人だったということも私の決断に影響した。私には、何かを犠牲にして自分だけが幸せになることはできない。
恋人の横たわる病室のベッドの側で、私は彼の手を握りながらもその顔を直視することができなかった。今の私にできることは、彼の側にいてあげることだけだった。
さて、この物語はフィクションです。現実の人物、団体とは一切関係ありません。っということで。
もしも、あなたが「私」の立場なら、どのような選択をするだろうか。
そして、僕が「私」の立場ならどうするだろうか。僕は「私」として上のような選択をしたが、何故かと問われれば「これが物語だからだ」と答えるだろう。非常につまらない答えかもしれないが、現実でないからこそ、法の下の正義などというクサいものに準じることができるというものだ。そういった意味で、セッション終了後自宅に帰って鬱々と思い返される、非常に印象に残ったシナリオだった。僕が「私」の立場ならどうするか、答えはまだ出ていない。
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